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2007/08/19 (Sun) 『ブラックダリア』

人間の暗い闇を覗く様な映画。

ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組 ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組
ジョシュ・ハートネット、スカーレット・ヨハンソン 他 (2007/05/18)
東宝

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 何と!!『TATSUYAのレンタル映画レビュー』一ヶ月ぶりの更新であります。まぁ、確かに忙しいのだけれど、ちょっと書くことに夏ばて気味でした。よしっ!!ここは気合を入れ直してと・・・。
 鑑賞のDVDは、アメリカ文学界の狂犬、『ジェイムズ・エルロイ』の原作を、これまたハリウッドの鬼才『ブライアン・デ・パルマ』が監督した話題作『ブラックダリア』。ダークでデモニッシュなクライム・サスペンスであります。

 舞台となるのは、1947年のロサンゼルス。ダウンタウンの空き地で、口を耳元まで切り裂かれ、身体を腰で切断された上に内臓を抜き取られた女性の惨殺死体がみつかった。この世界一有名な無名女優の死体を巡る二人の男と一人の女の物語。だが、エルロイの原作は並大抵のお話には留まらない。運命のカーブを切るたびに、次々と露になる暗い現実。やがて若き二人の刑事達の運命をも狂わせていくことになる・・・。 。FC2 Blog Ranking

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 40年代のロサンゼルスで実際に起こった迷宮入りの事件に、自らの少年時代の記憶も反映させて書いた『ジェイムズ・エルロイ』の傑作小説のテーマは、それ自体があまりに鮮烈であり、映画化された途端、それが映像のマジシャン『デパルマ』監督の手によるものであっても、やはり物足りなさを感じてしまう。そして残念なのは、豪華ではあるが、そのキャスティングにブレがあることだろう。『ジョシュ・ハートネット』や『スカーレット・ヨハンソン』の美男美女はよいのだが、役柄とのマッチングが足りない。ましてアカデミーの栄冠に2度輝く『ヒラリー・スワンク』が勿体無いのだ。  ブログランキング
 丹念に作りこまれた40年代の美術やロケセット。見事な時代考証のリアリティに、キャラクター達の微妙に違和感を感じてしまう。警官バッキーを演じる『ジョシュ・ハートネット』の甘いマスクが、事件の悲惨さや役柄の貧しく悲しい生い立ちを感じさせず、背負った悲しみも伝わってこない。また、『スカーレット・ヨハンソン』は、ブラックダリアを演じるべきではなかったかと思うのだが・・・。

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 そして、幾つかの伏線を用意しながらも何処と無くぎこちない脚本が、この物語の悲劇性とリアリティをスポイルしてしまっている。欲張りすぎた為に、複雑で悲しい個々の人間を描ききれていないように思われる。特に大富豪の娘マデリン(ヒラリー・スワンク)と、彼女を取り巻く暗くて悲しい家族のディテールを描けていないことが、ブラックダリアの死体以上に悲しく寂しいものになっていると感じた。

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桜は、来年また咲くことを知っているのか…。

花よりもなほ 愛蔵版 (初回限定生産) 花よりもなほ 愛蔵版 (初回限定生産)
岡田准一 (2006/11/24)
バンダイビジュアル

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 今回レビューの異色時代劇『花よりもなほ』は、前作『誰も知らない』で、カンヌの話題をさらった是枝監督の作品だ。テレビマンユニオン出身の彼は、95年のデビュー作『幻の光』以来、そのドキュメンタリーなタッチで独自の世界を創りり上げてきた。

 今回の『花よりもなほ』も、是枝監督らしい人間観察の眼力から生まれた時代劇にして人情劇と言った作風に仕上がっている。
 舞台は今から300年ほど前の元禄15年の江戸の下町。冬から春、そして夏を過ぎ秋がきて次の冬を迎えるまでの1年を、季節の移り変わりを美しく交えながら描いている。FC2 Blog Ranking

 主人公は、信州から父の仇討ちのために上京した武士の青木宗左衛門(岡田准一)。いつの間にか3年が過ぎ、崩れかけのオンボロ長屋に暮らしているが、ついに仕送りを断たれることになる。そんな折、長屋の仲間の貞四郎(古田新太)が仇の金沢十兵衛(浅野忠信)を見つけたと言っては金をせびるのだった。しかし、寺子屋を開き、剣術ならぬ算術を教えながら、向かいのおさえ(宮沢りえ)と息子の進之助母子との触れ合いに心を和ませる日々に満足していた。

 そんなある日、偶然金沢十兵衛がすぐ近くで人足として働き、妻と連れ合いの息子とつましく暮らしているのを知ってしまう。腕に自身が無いだけでなく、人として彼らの幸せを奪うことに疑問を感じる宗左衛門。そして、進之助の父も仇討ちで殺されていたことを知った宗左は、ぎゅっと進之助を抱きしめるのだった・・・。

 敵討ちの連鎖が続く江戸時代。武士の名誉と一分を賭けて相手を斬ることが正しいとされた時代において、宗左衛門はどう生きるのか。同じ長屋に潜む赤穂浪士達と対比させながら、人としての行き方を問う是枝監督の温かい眼差しを感じさせる良い映画である。ブログランキング

 劇団新幹線の古田新太演じる寺の息子貞四郎が言う。『桜は、来年も咲くことを知っているから、あんなに潔く散れるんだよ』と。来年咲くことが無い人々は、貧しくても強かに、しっかりと暮らしに足をつけて生きる。その姿もまた花なのだろう。かってのいい名付けに告白するそで吉(加瀬亮)の姿と、進之助の父が仇討ちで死んだことを知って抱きしめる宗左のシーンが良い。

また、古田新太をはじめ、木村祐一、上島龍平がユーモアを、加瀬亮と浅野忠信がペーソスを、そして香川照之、田畑智子、寺島進がリアリティを感じさせる。今までに無い、新しいスタイルの時代劇を、是枝組が見事に開花させた感がある。また、時代劇と言えば、『たそがれ清兵衛』で絶賛された宮沢りえはあまり好きではないが、『花よりもなほ』のりえちゃんが100倍素敵に思えたのは、達也だけだろうか・・・。

 ともかく、宮沢りえが演じるおさえの言葉、『宗左さんは、心のなかのクソを餅に変えたのよ』と叫ぶ言葉に、この映画は象徴されているのだ。


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2つの意味で、見るに足る映画なのだ。

メメント メメント
ガイ・ピアース (2006/06/23)
アミューズソフトエンタテインメント

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 最近観た『プレステージ』のラストシーンが忘れられなくて、クリストファー・ノーラン監督の『メメント』をDVDで観た。以前から、チョット屈折した映画をエンターティメントに仕立て上げて見せるのが上手い監督だと感じていたのだが、上記した『プレステージ』以来、それだけじゃないなと言う思いに駆られ、気になる謎を解決したくてついに『メメント』を観た訳です。
 と言うのも、『インソムニア』然り『バッドマン・ビギンズ』然り、以前からこの監督は何故あんなレトリック過剰なスタイルで描くのか? そして、屈折しながらも、深いメッセージと愛情を描こうとしているのでは? と言う疑問を持っていたからなのだ。

 そして、実質上『クリストファー・ノーラン』監督のメジャー・デビュー作であり、彼を新進気鋭の監督として世に知らしめた作品『メメント』に、彼の本質的な物をかなり感じられたのです。

 先ずこの映画『』メメント』のストーリーは、かなり斬新なリバース・ムービーとなっていて、ストーリーの前後が逆転して進行してゆく。ただし、全編がリバースなのではなく、記憶を回想する様に辿って行く10分間のチャプターで記憶が縦軸となって再生されるのだ。
 そして、スクランブルされたモノクロ映像は、過去の順列の進行形のスタイルを採っている。そしてさらに、物語のほぼ中盤で折り返している。つまり、リバースで始まるオープニングのテディを銃殺シーンは、ストーリーを正しい順列で観た時の中盤に位置している。
 その折り返しの時点から主人公のレナード(ガイ・ピアース)がぶつ切りの過去の記憶を観客と一緒にリバースすることになる。  ブログランキング

 この構造を知らずに観ると、この手の映画が嫌いな人は先ず付いていけなくなる。しかし、ノーラン監督は、前向性健忘(発症以前の記憶はあるものの、それ以降は数分前の出来事さえ忘れてしまう症状)のレナードと言う主人公を非常に魅力的に演出しているのだ。記憶を無くした後も前後の流れや自分のアイデンティティを再確認出来る様に、彼は自分の全身にタトゥを入れ、出合った人物や大切なことをポラロイドに撮ってメモする。移動ルートは、ポラロイドを貼り付けたオリジナル・マップを作成して行動するのだ。
 しかし、それでも数分後には記憶が消去され、今何をしているのか、目の前の人物が誰なのかさえ分からなくなる。その度にタトゥやポラで確認するが、謎と不安に襲われる。普通の意志では到底妻を殺した犯人への復讐どころではないが、妻への愛と今の自分の存在の証の為に奮闘する。その鬼気迫るレナードを演じたガイ・ピアースの演技に魅せられて、観客も物語を必死で追うことになる。

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 そこで我々も、レナードと同じ経験をすることになる。
 前向性健忘になっていない筈の我々の記憶も、儚いほどに曖昧なのだ。ほんの僅かなシーンも見逃してなるものかと躍起になるが、それでも???を連発することになる。達也も通常リバースで観て、DVD特典の時系列に編集されたものと、再度通常リバースを観て、やっと3回目にして構成を理解して、幾つかの点に気付いと言う次第。

 物語の概要は、前向性健忘と言う記憶障害に見舞われた男が、最愛の妻を殺した犯人を追うサスペンスである。ロサンジェルスで保険の調査員をしていたレナードは、ある日何者かに妻がレイプされたうえ殺害されてしまう事件に巻き込まれる。その時に犯人の一人に殴られたショックで、レナードは前向性健忘となってしまうのだ。彼は消えてゆく記憶を再確認出来る様にポラロイドにメモを書き付け、全身にタトゥーを刻みながら犯人の手掛かり一つ一つ執拗に追っていく・・・。

 ストーリーだけを簡単に説明すると、何の変哲も無い何処にでもあるありふれたプロットのサスペンスなのだが、ノーラン監督の手に掛かると、この映画がイリュージョンの様に様変わりする。正に『プレステージ』。ややもするとそのあまりにトリッキーなレトリックが鼻に付き、バッドなエンディングと相まって非常にシニカルでクール。そして愛の無い映画にも思えるのだが、達也は逆にそのリアリティとクールな眼差しにこそ彼の深いメッセージと愛を垣間見るのだが、どうだろう。
 
 これは、冒頭に述べた2つの疑問ともリンクしている。
 つまり、一つ目の過剰なギミックとトリッキーな編集についてだが、ノーラン監督は、デビュー後2作にしてハリウッドで大作を手掛けるまでに短時間で登り詰めたのだが、それは商業映画の監督としての彼の徹底したプロ意識にあると見ている。
 それは、この映画『メメント』が、多額のマネーを吸い寄せる構造に成っている事にある。この映画は一度劇場で観ただけでは理解できない複雑な編集で構成されている。従って、観客は再度映画館に足を運ぶことになる。でなくても、「この間見た『メメント』って映画、変わってんだよ」と、口コミのバイラル効果で広告せずとも広がって行く。事実アメリカで公開された時に5館でスタートしたものが、あっという間に500館を超える劇場で公開された事実を見ても明らかだろう。Web2.0を先取りしているのだ。

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 また、DVDのレンタルやセルを考慮し、特典で「もう一つのメメント=リバース編集」が収録されている。これも時代に乗った手堅いビジネスだ。
 インディーズ時代に撮影した実質デビュー作の『フォローイング』では、本業の仕事をしながら終末に15分づつ監督がカメラや製作など5役をこなして作ったようだが、この頃からメジャーへの志向とプロトしての意志を強く感じるのだ。  FC2 Blog Ranking

 そして、2つ目の疑問である、伝えたいメッセージだが、明らかに意図しているものがある。この『メメント』は、前向性健忘と言う記憶障害に見舞われた特殊な男が主人公だが、ある意味全ての人間がそうなのだ。レナードの確かな記憶は10分だが、我々は何分なのか・・・。デジカメやボイスレコーダーがこれだけ普及するのも無理もないことだ。この映画を観ながら我々はそれを思い知らされることになる。レナードと大差ないばかりか、忘れる存在であることさえ、この映画を観るまで思い出せないばかりか、観終わって数時間後には、何も覚えていないことに気付いて驚くのだ。映画のシーンに、レナードとテディが「記憶」と「記録」の違いについて議論するシーンがあるが、明らかに意図して挿入されている。テディは、『記録など意味がない、正常な人間はちゃんと記憶している』と主張するが、微妙である。

 映画の核心に触れるが、レナードは自分に障害があるのでテディやナタリー達が利用していると気付き、自分の記録を消し去り別の記録を捏造する。そして自分の記憶を過信したテディは消去されることになる。
 レナードは妻の遺品を使って記憶を想起しようとするが、その記録である遺品を燃やして消去する。彼のレゾン・ディテールである、妻を愛した記憶だけは消したくなかったからなのだ・・・。

 『メメント=Memento』は英語『Moment』の語源のラテン語で、『思い出』の意味だが、『Memento Mori=死すべき事を忘れるな』と言う意味もある。

 ちなみに、TSUTAYAやDISCASで借りられるレンタルDVDにも、クリストファー・ノーラン監督のロングインタビューや、時系列編集のもう1つの「メメント」などの特典が収録されているので、是非。あっ、アフェリエイトのお努めは『メメント』してるよ。


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ジェレミー・セオボルド (2002/05/22)
アミューズソフトエンタテインメント

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ジャパンサイコの最高峰。

CURE キュア CURE キュア
役所広司 (2007/07/27)
角川エンタテインメント

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 『デビッド・フィンチャー』のゾディアックを試写会で観て、なぜか観たくなった映画がこの『CUREキュア』なのだ。監督は、もう一人の黒沢として世界でも認められる『黒沢清』。チョッとレトリックやギミックに走りすぎる嫌いもあるが、この映画は流石、蓮見重彦の薫陶を受けただけの事はある見応えのある濃厚な一本と言える。

美しい海岸の砂丘のシーンからこのサイコ・サスペンスは始まる。自分の名前も思い出せない男・間宮(萩原聖人)は、偶然知り合った男の親切に甘えて自宅に上がり、一つ目の殺人教唆を犯す。それは、医大の精神科の学生だった間宮が、催眠術を使って人々の心の奥に潜む狂気を呼び覚まし、潜在的願望を開放して<CURE/癒し>するという行為だった。
 その猟奇殺人を追う刑事の高部(役所広司)は、事件を追っていくうちに、自らが抱える不満を表出していき、皮肉にも癒されていく。高部には、精神を病んだ妻がいたのだ。もちろん高部は妻を愛していたが、心の底では、疎ましくも感じていたのだ。 ブログランキング

誰にでもある潜在的不満。今と言うストレス社会にあって、それは否定できない事実である。誰もが上辺は平成を装って入るが、心に満たされぬ思い、癒されぬ自分を抱えている。そんな心の隙間にスルリと入り込み、眠らせていた怒りや黒々とした得体の知れぬ怒りを解き放つ。観る者をぐいぐい引き込んでいく緊張感のあるストーリー展開に、いつの間にか魅せられて行く。

 日常の延長線で、あっけなく人を殺してしまう。咽や胸をXに切り裂いて。そんなシーンで流れる場違いなメロディにゾッとする。空中を走る路面バス。高部の妻が空っぽの洗濯機を回す音が耳から離れなくなる。そして、追い討ちをかけるように、犯人の間宮は『あんた、誰?』『おぼえてない』『あんての話し、聞かせてよ・・・』と、不気味にこちらオ駆り立てる。

眠りの魔術師メスマー 眠りの魔術師メスマー
ジャン チュイリエ (1992/09)
工作舎

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 やがて、一連の事件に関連のある人物として記憶喪失の放浪者、間宮が浮かび上がる。事件への関与を確信した高部は、彼を拘留し尋問を続ける。しかし間宮は、今まで癒した誰よりも、刑事の高部に救済者としての資質があることを見抜く。そして、逆に高部を不安と苛立ちの極致へと追い込んでいくのだった・・・。  FC2 Blog Ranking
 全身ストレスの塊のような高部を演じた『役所広司』の演技に魅せられる。今や世界で認められる役所だが、この映画の演技には、見事に役所ならぬ役者としての存在を感じさせられる。また、甘えた声で奇妙な間をもって問いを重ねていく間宮を演じた『萩原聖人』の演技力も怖い。サイコな犯人を演じさせて、彼の右に出る俳優は日本にはいないだろう。

 この映画を他のサイコ・サスペンスやホラー映画と別次元に押し上げているのは、黒沢清監督の演出・脚本の力によるものだ。アントン・メスメル(メスマー)の催眠療法や動物磁気をモチーフに、異色のサイコ・サスペンスを作り上げている。何気ないクリーニング店の会話、ファミレスでのウエイトレスとのやり取り、そして路線バス。何れも劇中に同様のシーンが二度出てくるのだが、一度目と二度目では、その意味する所は全く違うものに成っている。特に、ラストのファミレスのシーンの引き画は怖い。マニュアル通りの接客で高部に接したウエイトレスの片手には・・・。あ~、怖いですねぇ怖いですねぇ。今回のレビュー・タイトルのコピーが、『サイコの最高峰』。あー怖いですねぇ。

魔の眼に魅されて―メスメリズムと文学の研究 / マリア・M. タタール


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犬のような愛=『アモーレス・ペロス』

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 『21g』→『バベル』→『アモーレス・ペロス』と、まるでイニャリトゥの映画編集の様な見方になったこの一連の作品だが、見事に「アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ」節が詰まっている。
時間軸をシャッフルした手法で、人間の本質的な弱さ、哀しさ、そして愚かさを徹底的にリアルに描く演出は、1作目から変わっていない。
 いやむしろこの1作目にこそ、彼のオリジナリティがスクリーンいっぱいにストレートに溢れていると言えるだろう。

 物語の舞台はメキシコ・シティ。街を逃げるように疾走する1台の車がスクランブル交差点に猛スピードで突っ込むと、もう1台の美しい女が運転する車とクラッシュする。鳴り響くクラクション、燃える車。路上に撒き散らされたフロントガラスの破片。現場に居合わせたのは、犬を連れた浮浪者の様な初老の男。そして、一方の車には黒い瀕死の闘犬と若い男。もう一方の車には、美しいブロンドのモデルと小さなマルチーズが乗っていた。

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 観客はこの導入部分でグィッと本作に引きこまれる。そして、観客は時間を遡り、事故を起こした男、事故に巻き込まれた美しいモデル、事故を目撃し傷ついた犬を連れ去る初老の男と、三者三様の様々な人間の生き様を観てゆくことになる。 ブログランキング

 兄嫁に恋し、彼女と街を出るため飼犬を闘犬にして金を荒稼ぎする青年を描く①の『オクタビオとスサナ』。不倫の末、ようやく愛を勝ち取ったはずの人気モデルが事故のために転落していく②の『ダニエルとバレリア』。元教授で革命家の殺し屋が、思想の為に捨てたはずの家族への愛に苦しむ③の『エル・チーボとマル』、この三篇の物語でこの映画は構成されている。
 そして、この映画で描かれている《愛》は、すべて自己中心的なエゴイスティックな愛であり、報われない不毛の愛だ。しかし、どの登場人物たちも熱い血を滾らせながら、必死で今の一瞬を生きている。そんな彼らを、彼らの飼犬と重ねながら、一層その哀しい性をリアルに描き出していくのだ。

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  また、この映画をまるで上質なドキュメンタリーの様に感じさせる要因として、その素晴らしいカメラワークがあるが、出演者達の類稀な演技力も忘れてはならない。エル・チーボ役の『エミリオ・エチェバリア』、兄嫁に思いを寄せるオクタビオ役の『ガエル・ガルシア・ベルナル』がいい。

 少々強引で、荒削りな感もあるが、『アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ』監督の、映像・脚本構成・音楽のセンスがここでも光っている。エンディングの荒野へ歩き出す「エル・チーボ」の前段がチョッと長くて冗長な気もするが、『グスターボ・サンタオラヤ』のギターサウンドが流れ出すと、鳥肌が立つくらいキマっている。FC2 Blog Ranking

 達也としては、モデルのバレリアが事故後に自分の巨大な屋外広告が外されたビルの壁を窓越しに見るシーンと、エル・チーボが娘の部屋から盗んだ写真に、自分の写真を貼るシーンが気に入った。どちらも、人の哀しさと愚かさを見事に浮き彫りにしていると感じた。



アモーレス・ペロス スペシャル・コレクターズ・エディション アモーレス・ペロス スペシャル・コレクターズ・エディション
ガエル・ガルシア・ベルナル (2007/02/23)
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